「デジタル描画」についての考察

デジタル的描画方法

前回、「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」で「iPad Air 5」での「デジタル描画」に臨みました。しかし、期待した結果を得ることができず、「アナログ描画」との違いを改めて知らされたのでした。

「デジタル描画」にどのように取り組めば良いのかの検討が必要と強く感じ、今回はその考察を行います

試し描き、そして模写

私は「デジタル描画」をいかに「アナログ描画」に近づけるか、を模索してきました。
板タブでは、それが実現できず「デジタル描画」から去った暗い過去があります。

でも今回、最新機種で高スペックな「iPad Air 5」と「Apple Pencil 2」を入手したことで、再度「デジタル描画」に挑戦。画面に直接ペンで描くという、板タブより「アナログ描画」に近い描画方法なので期待を持った挑戦でした。

「iPad Air 5」での「デジタル描画」を体験すると同時に、板タブとの違いを把握するのが目的です。
視線と手元が同位置なので板タブのような違和感がないのが体験した第一印象。板タブよりも好印象を持ちました。
ですが、やはり「アナログ描画」との違いを強く感じる「試し描き」だったのが前回までの経緯です。

次のステップとして、アナログ画材のような筆遣いをデジタル画材で再現する鉛筆や筆などのツールの最適な設定値を探すため、模写をすることにしました。
板タブの時は、練習もなし、ツールの特徴も把握することなく、直ぐに自作品に取り掛かかりました。そのため、アナログ画材の違いが解消できず挫折したとの反省を踏まえての対処です。
模写をすることで、アナログ作品の筆遣いをデジタル画材で再現するための試行錯誤を行うことができます。その試行錯誤はアナログ画材とデジタル画材の違いを埋める経験との考えからです。

模写に選んだのは絵本
絵本を選んだ理由は、絵本作家により表現方法、使用している画材が豊富だからです。絵本は、水彩画もあれば、ガッシュやパステル、切り絵もあります。絵柄もマンガチックなものから墨絵のようなものまで多彩です。
現在は、電子書籍となっている絵本が多くあります。新作だけでなく、過去の名作絵本も電子書籍になっているので目的に合った作品を選ぶことができるのもメリットです。

今回は、「Kindle」にある絵本の1画面をスクリーンショットし、それを「お絵描きアプリ」に読み込む方法を取りました。
取り込んだアナログ画材を見ながら、別レイヤーにデジタル画材で同じ筆遣いになるようトライアンドエラーし完成させることを目指します。

私が、模写の最初の画材にしたのは水彩画です。
水彩画を選んだ理由は、自分自身過去に水彩画で作品を描いた経験があり知識があることと、「デジタル描画」で再現が難しい表現方法なので、水彩画でデジタル画材が再現できれば、他のアナログ画材もクリアーできるとの考えたからです。

アナログ画材を表現できず

しかし、結果は失敗
「アナログ描画」の手法で「iPad Air 5」上に水彩画の表現は再現できませんでした。

何故

最新のデジタル端末でもアナログの画材の表現を再現できなかったので、その原因を冷静に追及しなければその先には進めません。
無闇に、手を動かして解決する問題ではないと感じました。

世の中にアナログチックなデジタル作品がないか、というとそんなことはありません。作品のテーマでデジタル臭さを嫌い、アナログチックに描いた作品はたくさんあります。
そもそも、板タブ時代に私が興味を引かれた吉井宏氏の作品もデジタルではなくアナログチックな描写に特徴がありました。

吉井宏氏の「Painter」での制作解説の書籍
吉井宏氏の「Painter」での制作解説の書籍

ここから導き出される解答は、「デジタル描画」でアナログチックの描画は可能ということです。
なのに、何故私には描き切れないのだろうか? このギャップを埋める解答が必要です。

板タブ時代には、プロの制作手順を知りたいと思っても、情報はデザイン系専門誌などの紙媒体に限られていました。
しかし、現在は動画配信が一般的になり、作画の制作テクニックが多数「YouTube」を始めとした動作サイトにアップされています。動画になったことで文字や静止画像ではわからなかったプロのテクニックが見えてきました。

私がアナログ画材の表現を再現できなかったのに、プロの方が何故アナログチックな作品を製作できるのかの視点で多くの制作動画を見ました。
そして、多くのアナログチックな作品が、鉛筆や筆というアナログ画材と同じ名前のツールを使ってもアナログ画材の描き方を踏襲していないことに気付きました。
アナログチックな表現は最後の仕上げ工程で加えているだけ。その前の工程はデジタルの特徴を活かした技法を使い制作しています。

つまり、「デジタル描画」を「アナログ描画」に近づける作業を行っていないのです。
これに気付いた時、私はショックを受けました。私の考えが根底から覆された瞬間です。
私はアナログ画材と同じ描画方法、手順を踏襲することが「デジタル描画」でも正しい表現手段になると考えて試行錯誤をしていたからです。
でも、プロの方はアナログチックに見えるようにするのは「アナログ描画」と同じ制作工程を踏まえることではないと示していたのです。

具体的に事例を見ていきましょう。
下記は、「Adobe Fresco」を使ったサタケシュンスケ氏の作品と「Illustrator」を使った専門学校講師のイラレさん氏の作品です。
両氏の作品はアナログチックな表現が特徴ですが、鉛筆や筆などのツールでアナログ画材風の使い方はしていません。最後の工程までデジタルのテクニックで制作し、最後の工程でアナログチックな風合いを出す加工を加えているだけです。

また、下記2作品はデジタルの特徴を最大限に活かした制作手順で作品を制作しています。
完成した作品を見ると油彩や水彩で描かれたようなアナログチックな風合いを出しています。
しかし、その実、制作の基本は墨一色!
その墨レイヤーに対してはみ出しが見えないよう後からマスク機能を使いを使って加工しています。デジタル機能を使うことで短時間で簡単に希望するアナログチックな表現を実現しています。
私が両作品を描いたら「アナログ描画」と同様の制作方法で描き進めるので、境界線からはみ出さないよう四苦八苦するところです。

Adobe FrescoとAdobe Illustratorを使って、手書き風だけど境界線がきれいなイラストを描く(まちい)

マスクを使って水彩をはみ出さないで塗る方法 vol.1 – お花のイラストメイキング(glarche ArtWorks)

「デジタル描画」の最適解とは?

ここまで、事例が多数あると言い訳はできません。
つまり、デジタルでアナログチックに描くにしても、その手順はアナログ画材と同じ工程を進む必要はない、否アナログ画材と同じ工程を進んではいけないのです。

そもそもアナログ画材でも、油彩絵具で水彩画は描けませんし、パステル画材でアクリル画も描けません。水彩、ガッシュ、アクリルなどは画材が異なってくれば出来上がる描写は違ってきます。このため、制作者は都度各画材に最適な表現方法を模索しています。

墨一色で描くデジタル的描画方法
墨一色で描くデジタル的描画方法

デジタル画材も同じ。水彩で油絵を目指さない、油彩でパステル画を目指さないと同様、デジタル画材でアナログ画材を目指してはいけないのです。
「デジタル描画」は「アナログ描画」の後追いを追求するのではなく、新しい画材としてデジタル画材に最適な表現方法を構築するべきというのが正解です。

マスク機能を活用したデジタル的描画方法
マスク機能を活用したデジタル的描画方法

事例を見ると「Illustrator」や「Photoshop」と同等の機能が「お絵描きアプリ」でも使えることがわかりました。例えば、「マスク」や「乗算」などの「描画モード」等々。
今まで私が経験した「Illustrator」や「Photoshop」の機能が「お絵描きアプリ」でも使えるのは「iPad Air 5」での「お絵描き」をマスターをするには大きなメリットと捉えることができます。
これは、今後「デジタル描画」を行うためにポジティブな影響を及ぼすでしょう。

まとめ

さて、「デジタル描画」の考察が終了したことで、やっと「デジタル描画」の新しいステップに進めます
「アナログ描画」を一度忘れ、新たなデジタル画材に取り組む姿勢で臨みたいと思います。
まったく新しい画材なので試行錯誤、トライアンドエラーで行き詰まることもあるかと思いますが、それも新たに挑戦する「デジタル描画」の楽しみのひとつと考え進みたいと思います。

関連記事

6月中旬、「iPad Air 5」で「お絵描き」をするためのアプリとして8点をピックアップしました。その後、その8点を使い比べ自分の描き方にフィットするアプリを絞り込みました。その結果、最終的に「Adobe Fresco」をメインで[…]

「Adobe Fresco」
関連記事

前回、「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」が揃ったので、試し描きをした印象をレポートしました。次のステップは、本格的に「デジタル描画」をするためにメインとなるアプリの選択です。「iPad」での「デジタル描画」[…]

「お絵描きアプリ」
関連記事

前回、「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」で「iPad Air 5」での「デジタル描画」に臨みました。しかし、期待した結果を得ることができず、「アナログ描画」との違いを改めて知らされたのでした。「デジタル描画[…]

デジタル的描画方法
関連記事

「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」が揃ったので、「iPad Air 5」に描画し描き味がどのように変化するのかをチェックしました。グレア(光沢)液晶保護フィルムと「Apple Pencil 2」[capti[…]

「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」
関連記事

前回、「iPad Air 5」で「デジタル描画」に再チャレンジすることを宣言しました。今回は、「お絵描き(以降「デジタル描画」)に必要な「Apple Pencil 2」と「ペーパーライクフィルム」購入の経緯を記します。描画用ペンは「[…]

「ペーパーライクフィルム」と「Apple Pencil 2」
関連記事

今まで「iPad」では、「Kindle」や「YouTube」の閲覧など受動的な使用しかしなかった私。しかし、せっかくハイスペックな「M1チップ」を搭載した「iPad Air 5」を購入したので、より積極的な活用をして行きたい考えました。[…]

「iPad Air 5」で「デジタル描画」
関連記事

「Apple」の「新学期を始めようキャンペーン」で「iPad Air 5」を購入した経緯は前回アップしました。前回記したように「iPad Air 5」に買い替えは決定していて、3月に開催すると思っていた「Apple」のイベント(結局なし[…]

「iPad Air 5」トップページ
関連記事

「Apple」は2月2日から4月10日まで新学期に向け恒例の「新学期を始めようキャンペーン」を行っています。私は今回このキャンペーンを使用して「iPad Air(第5世代)(以降「iPad Air 5」)」を購入しました。ちなみに、[…]

2023年の「新学期を始めようキャンペーン」