2024年10月15日、「モリサワ」から「写研」の「写植書体」43フォントが提供開始されました。
今回は、写研の写植書体が「OpenTypeフォント」としてデジタルフォント化した経緯を記します。
写研の写植書体がリリースされた経緯
最初の動きは2021年1月です。
モリサワと写研は、写研の写植書体をDTPで利用できるOpenTypeフォントとして再生するプロジェクトを発表。
3年後の2024年2月、写研の写植書体100フォントを「OpenTypeフォント」として提供し、その内43フォントを2024年内に提供するとモリサワが具体的な計画を発表したのです。
そして半年後の2024年10月15日、第1段として写研の写植書体32ファミリー、43フォントが正式に提供開始されます。
提供されたのは、「石井明朝・石井明朝オールドスタイルかな」「石井ゴシック」などの改刻13フォントと「ゴナ」や「ナール」などの「写研クラシックス」30フォントです。
DTPが普及し事実上写研の写植書体が使えなくなって30年近く経過。
一時は諦めていた写研の写植書体が時を超え、2024年10月からDTPで使えるという信じられないことが実現した瞬間です!
写植とは何?
そもそも、写植が何かを説明する必要があります。
写植はDTP以前の組版のスタンダードでした。しかし、DTPが登場したことで主役の座を奪われたのです。
写植からDTPに切り替わり始めたのが30年前です。
そのため、デザイン業界、印刷業界で働いている現役の方々でも写植を知らない世代が大半となっています(知識として知っていても実作業での経験はない)。
そのような状況のため、簡単に写植について説明します。
写植の正式な名称は「写真植字」。名前の通り写真の技術を使った技術です。
実際の作業は、写真植字機に文字フィルムをセットし、レンズで希望の大きさに拡大・縮小して1文字づつ印画紙に焼き付けていきます。
写植は、活版印刷では不可能だった文字サイズや字間、行間などを自由に調整できようになったことが特徴です。これにより、日本語組版が大きく進化しました。
自由に調整できる柔軟性から、新聞、雑誌、書籍、広告、看板など、あらゆる分野の組版において1970年後半から1990年代まで広く使われました。
写植時代トップだった写研
その写植業界で圧倒的なシェアを誇ったのが写研です。
写研は、独自開発の写真植字機と、それに対応した専用書体をセットで提供するシステムを確立。1970年代以降は国内シェアの半数以上を占めるトップメーカーとなりました。
特に「石井明朝」「石井ゴシック」「ナール」などの写研の写植書体は、当時の多くのデザイナーに愛用されました。
DTPに乗り遅れた写研
しかし1990年代に入ると、「Apple」が発表した「Macintosh」によるDTPの時代が到来しました。
これは、鉛活版印刷から写植への移行と同様、あるいはそれ以上に印刷、デザイン業界の大きな変革でした。
DTPにより、組版やレイアウトの作業がPC上で完結。印刷・出版のワークフローが一変。これに伴い、写植からデジタルフォントへの移行が始まりました。
この大きな技術転換期において、写研はDTPへの対応ではなく、写植における自社独自技術の存続に執着しました。
業界トップ企業が既存の自社技術に固守し外部環境の大きな変化に対応できず衰退するケースはよく目にすることです。写研も同じ道をたどることになりました。
写研の写植書体は専用機でしか使えずDTPで使えなかったので徐々に主流から姿を消していきました。
一方のモリサワは、外部環境の大きな変化に対応する道を進みました。これは、モリサワが業界トップではなかったことで変化を受け入れ、業界での地位の逆転を狙ったのでしょう。もし、モリサワが業界トップなら写研と同じ考えをしたと思います。
結果としてDTP対応でモリサワの地位は向上。今では、デジタルフォント業界のトップに昇り詰めました。
まさに歴史の妙です。
写研の写植書体がデジタルフォントとして蘇る意味
書体がデジタル化したことによりフォントは写植時代に比べ大幅に増えました。
このような環境の中で大昔の写植書体をデジタル化することに意味があるのかと疑問に思われるはずです。
私は意味があると考えています。
何故なら、デジタルフォントが増えても写研の写植書体の美しさは別格ですから。
私がデザイン、印刷業界に関わるようになったのはDTPが普及してから。なので私も実作業で写植を扱った経験ありません。
一方で私は読者として写研の写植書体にどっぷりと触れていた世代です。
写植全盛の1980〜90年代は雑誌全盛の時代でもありました。全盛期、各誌の発行部数は数十万部にも達していました。
「マガジンハウス」の「an・an」、「non-no」、「POPEYE」など、サブカル系では「宝島」、「ビックリハウス」などはもちろん、それ以外でもほとんどの雑誌は「石井明朝」や「ゴナ」など写研の写植書体で組版されていました。
雑誌だけでなくチラシやポスターから道路標識、駅名などにも写研の写植書体が採用されていたのです。言うなれば写研の写植書体に日本国中が包まれていたといえます。
このような環境だったので仕事として写植書体に関わっていなくても写研書体は日常的に目にし馴染みのある書体でした。
そのような私がその後DTPを始めてから日本語組版で主に使っていたのは「モリサワフォント」です。
しかし、使用頻度が高かった「新ゴ」など「モリサワフォント」に少なからず違和感がありました。その理由が不明でしたが何故か違和感だけを持ち続けていました。
2021年に写研の写植書体がデジタルフォントになるとのニュースで、改めて写研の「石井明朝」や「ゴナ」を見返してみて、その違和感が理解できたのです。
そう、写研書体にあった書体の美しさや佇まいが「モリサワフォント」を始めとしたデジタルフォントにないのに気付いたのです。
昔見慣れていた単なる懐かしさではなく、フォントとしての完成度が別格だと知りました。
なので、今回モリサワから提供される写研書体のデジタルフォントには期待しかありません。
DTPからデザイン業界、印刷業界に入った世代にとっては、写研書体は使ったことはないので新しいフォントという存在でしょう。
しかし、復刻された写研書体に触れれば、その美意識や設計思想は十分納得でき、現在のワークフローでも活かせるフォントだと理解できるはずです。
今後復刻される写研書体も含め歴史的な書体がデジタルフォントとして新しい活躍の場を提供誌、より美しい組版を作り上げることを願っています。
なお、私は昨年の10月に「Morisawa Fonts 学生・教職員向け スタンダードプラン」を契約していたので、今回の写研の全43フォントはすべて使用可能。
待望の写研フォントがそのまま年間990円(税込)の範囲で使えるのは嬉しい限りです。
「YouTube」参考動画
下記に写研書体のデジタルフォント化についての動画リンクを記します。
参考にしてください。











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